BRICSを超えて:新興国株式投資におけるインカム収益という「あまり人が通らない道(the road less travelled)」
本稿では、BRICS以外の新興国株式市場がどのように景観を変えているかを説明します。今こそ、あまり人が通らない道を探検するときです。

所要時間: 2 分
日付: 2025年10月09日
しかし、こうした明白な選択肢の先には多様かつ急速に発展している小規模市場のユニバースがあり、その多くは株式投資におけるインカム収益の景観を静かに変えつつあります。
この「あまり人が通らない道」は、中東、東南アジアから中央アジア、中南米にまで広がっており、BRICSからさらに遠くに目を向けたい投資家に分散の機会をもたらしています。
インカム収益の獲得において、なぜ新興国株式市場が重要なのか
新興国株式市場では20年以上にわたり、配当の増加と株主重視の企業文化の広がりが共通のトレンドとなっています。
ファクトセットとジェフリーズのデータによると、有配企業の割合は今や新興国株式市場が先進国株式市場を上回っています[1]。
一方、2003年から2024年までの配当の年平均成長率(CAGR)は、先進国株式市場の7.4%に対し、新興国株式市場では11.8%でした(図表1)。
図表1:配当の成長率は新興国がトップ
出所:ファクトセット、ジェフリーズ・エクイティ・リサーチ、2025年6月30日。注:配当指数は、現在のMSCIユニバースについて類似銘柄ベースで前年比での浮動株調整を行い、ボトムアップで集計しています。このチャートは例示のみを目的としています。予測は見解として提示されており、潜在的なパフォーマンスを示すものではありません。予測は保証されたものではなく、実際の出来事や結果は大きく異なる可能性があります。
こうしたトレンドを牽引しているのは、企業のキャッシュフローの改善、バランスシートの強化、投資家にとってのインカム収益の重要性に対する認識の高まりです。
多くの場合、新興国株式市場は先進国株式市場よりも総利回りが高く、分散投資やポートフォリオのインカム収益の増加を求める投資家にとって魅力的です。
新たなフロンティア:中東
では、あまり人が通らない道を進んでみましょう。かつて、中東は新興国株式指数の中でも周縁地域とみなされており、10年前にはベンチマークにおけるウェイトがほとんどゼロでしたが、今では中南米と同程度のウェイトになっています。
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった国はもはや石油だけで定義されるものではなく、今や経済の多角化、社会改革、企業イノベーションの中心地となっています。
サウジアラビアは、コモディティ価格の変動に備え、自国経済の「将来性を確保する」ために、観光や娯楽、テクノロジーなどの非石油セクターに多額の投資をしています。
女性の労働力参加の増加や娯楽の自由化といった社会改革は、新たな消費層を生み出し、民間教育、レジャー、旅行への需要を喚起しています。
インカム収益を期待する株式投資家にとって、これは強力なキャッシュフローと累進配当方針を持つ優良企業の増加につながります。
一方、UAEは世界中の人材と資本に対してオープンであり、テクノロジーとインフラの地域ハブとして台頭しています。
特に地域冷房や物流といったセクターでの新規株式公開(IPO)の増加は、政策当局のサステナビリティとイノベーションへの取り組みを反映しています。
例えば、地域冷房はエネルギーコストと二酸化炭素排出量を削減する局所的な温度調節ソリューションであり、企業は長期的な成長と安定した収益を得ることができます。
東南アジア:成長、デジタル化、インカム
この地域では、国内需要の増加、デジタル・トランスフォーメーション、ガバナンスの改善を背景に有配企業が急増しており、アクティブ運用会社により多くの機会をもたらしています。
インドネシアの銀行セクターと通信セクターは、高配当企業を含め、デジタル化と中産階級の拡大から恩恵を受けています。
ベトナムの急速な経済成長と市場改革は投資を呼び込んでおり、企業は株主重視の慣行や定期的な株主配当を採用しています。
フィリピンでは、貿易の拡大と若い人口に支えられ、インフラ企業や物流企業が高い利回りを提供しています。
中央アジア:「~スタン」市場の台頭
カザフスタンは世界最大手のウラン採掘企業を擁しています。原子力エネルギーが持続可能なエネルギー源としてより広く受け入れられるようになるのに伴い、この企業は低コスト生産とサプライチェーンの優位性を支えに、長期的に収益を拡大できる立場にあります。
中央アジア以外では、東欧と西アジアを結ぶ戦略的要衝に位置するジョージアも注目を集めています。同国には、堅固なリスク管理システムと最新のテクノロジー・プラットフォームを誇る銀行があります。この銀行はこうした強みを生かし、新たな市場を開拓して収益を分散するための国際展開を進めています。
これらの地域に所在する企業は、世界的なトレンドとは無関係に動くことが多いユーラシア大陸の株式市場での貿易・経済活動の拡大から恩恵を受けています。そのため、こうした企業に選択的に投資することで、投資家にとって貴重な分散のメリットがもたらされる可能性があります。
中南米:ブラジルと関税を超えて
中南米の小規模市場は、より大規模な近隣諸国の市場の陰に隠れがちです。しかし、これらの国はコモディティ需要、デジタル化、インフラ投資によって復興を遂げつつあります。
例えば、ペルーは銅価格の上昇から恩恵を受けており、それが政府歳入を押し上げ、民間セクターの投資を促進しています。
リスク管理に重点を置くペルーの金融サービス企業やモバイル決済プラットフォームが市場シェアを拡大し、より幅広い顧客層にリーチしています。
その他の国に関しては、メキシコは米国の関税という文脈で考えられることが多いものの、それでは本質的な部分を無視することになります。メキシコには同国株式市場がもたらし得るインカム収益の好例となるような2つの空港運営会社もあります。
安定した顧客基盤と強力な価格決定力を持つこの2つの会社は、メキシコではまだ普及していない航空旅行の成長から恩恵を受けるのに有利な立場にあります。同国の安定した経済と健全なバランスシートが、魅力的なリターンとインカムの成長をさらに支えています。
リスクを管理し、機会を解き放つ
これらの市場は、流動性の制約、ガバナンスの問題、政治的リスクなど、独自の課題を抱えています。
そのため、アクティブ運用と現地でのプレゼンスがカギとなります。投資家は、企業の経営陣と直接エンゲージメントを行い、現地の市場力学を理解し、ファンダメンタルズに注目することで、パッシブ戦略では見逃されがちな「宝石」を発掘することが可能です。
世界的な利回り追求の動きが強まる中、新興国株式市場のあまり人が通らない道は、インカム収益を期待する株式投資家に豊富な機会を提供してくれます。
BRICSを超えて新興国株式市場の多様性を受け入れることで、資産運用会社はボラティリティと変化の時代に適した、より強靭で分散されたリターンの大きいポートフォリオを構築できると考えます。
- 出所:Factset、Jefferies Equity Research、2025年6月30日