中国やその他の国の企業との対話では、イノベーション、成長可能性、消費者信頼感の高まりを示す証左が明らかになりました。これは、アジアが直近のグローバルな経済的試練に立ち向かえることを示唆しています。
技術規制は中国の足かせになっていない
私は、トランプ米大統領が正式にホワイトハウスに戻る前に北京を訪れました。しかし、トランプ大統領が懲罰的な「解放の日」関税を課す前から、企業はすでに米国とのビジネス関係が厳しさを増すことを予想していました。
トランプ大統領の政策は試練をもたらしていますが、アジア企業は堅調です。私にとって注目すべき例の1つは、米国がすでに中国に課している技術規制が進歩を妨げておらず、むしろイノベーションのきっかけとなっていることです。
これが最も顕著に現れているのは、中国における自動運転車の開発です。中国企業は、米国製の高度な半導体や部品(Nvidiaの最先端画像処理装置など)を入手できないにもかかわらず、大きな進歩を遂げています。今回の調査のための出張中に、私は自動運転車に2回乗りました。最初に乗ったスタートアップ企業のPony AIが運営する車両には、運転手がいませんでした。次に乗った投資先企業のLi Autoの車両には運転手がいたものの、運転に介入する必要はありませんでした。
住宅街や交通量の多い北京のダウンタウン、広い高速道路(最高時速80マイル)を走っているとき、最初の30秒ほどは運転手がいないことに不安を感じましたが、すぐに人間が運転しているよりも安全だろうと思うようになりました(そして自動駐車機能は、私自身の駐車能力よりもはるかに優れていました)。自動運転は本質的に、人工知能(AI)によって解かれる巨大な計算問題であり、道路状況、他の道路利用者、潜在的な危険といった大量のデータを処理します。現在、自動運転車に搭載されているAIシステムは人間の運転手より約7倍優れていると推定されており、開発者は10倍を目指しています。
AIの進化
米国企業はAIが人間の知能を超える「聖杯」に焦点を当てていますが、中国は異なるアプローチを取っています。中国での体験ではっきりしたのは、開発者がまずは需要を創出し、機能のエコシステムを構築してから、次のステップに進むということです。
技術の進歩と企業や消費者がそれを採用するスピードには驚かされました。企業は政府や規制当局の支援を受けており、それが急速な普及につながっています。
様々な企業がAIの他の用途を模索しています。例えば、オンラインゲーム開発企業のNetEaseは、企画、設計、コーディングといったゲーム開発分野で生成AIを活用し、制作のコスト効率を高めています。同社は、豊富な開発者人材プールとゲームタイトルの大規模なプラットフォームのおかげで、この機会を利用できるだけの事業規模を持っていると私たちは考えます。
Li Auto
中国のLi Autoは、自らを自動車メーカーというよりも、アップルのような消費者向けテクノロジー企業と位置付けています。同社は、テクノロジーを通じて自動車を製品と考える消費者の見方を覆し、安全性、娯楽性、快適性、空間に対する期待を再設定しています。また、BMW、アウディ、メルセデスといった業界トップクラスのブランドから市場シェアを奪っています。同社には、非常に強力な経営陣と実績、競争力のあるコスト構造、特定されたターゲット市場、明確なビジネス倫理とプロトコル、強固なネットキャッシュ・バランスシート、優れた将来ビジョンがあります。Li Autoは収益性の高い自動車メーカーであるため、内部で生成されたキャッシュフローを事業の成長に向けて再投資することができます。
安定化と回復
ここ数年、中国を巡る議論の中心となっているのは、製造業、建設業、インフラを基盤とする「オールド」エコノミーから、サービス業や消費関連ビジネスを牽引役とする「ニュー」エコノミーへの移行です。中国では、ニューエコノミーがオールドエコノミーの衰退を完全に相殺する転換点に近づいているという感覚が高まっています。
中国の不動産、インフラ、過剰生産能力がこの移行を遅らせているものの、中国企業や中国で事業を展開している企業(半導体サプライチェーンや消費財産業など)との対話では、消費者信頼感の改善が長期的な景気回復につながることへの期待が示されました。
このような見解は、私の中国訪問以降、どれほど変わったのでしょうか。政府の景気刺激策(預金準備率の引き下げ、貸出金利の引き下げ、数百万人の政府職員に対する異例の賃上げなど)が、経済を活性化させるのに役立ちました。2025年第1四半期のGDPは前年同期比5.4%増となりましたが、現在の米国の政策が影響を及ぼすのは確実です。中国の李強首相は、輸出企業に対して「重大な」外的変化に対処しなければならないと警告し、国内消費の拡大を支援すると約束しました[1]。
MediaTek
MediaTekは台湾のファブレス半導体設計企業であり、強力な配当規律とアセットライト(資産保有を抑えた)ビジネスモデルを持っています。市場シェアの集中と成長性の高い市場は、同社のキャッシュフロー創出にとってプラス要素と私たちは考えます。MediaTekは高い配当金を支払いながらも、余剰キャッシュフローを事業に再投資しています。米国の競合企業であるクアルコムとの技術格差を縮めつつあり、MediaTekとのミーティングでは、携帯電話市場におけるAIの役割について話をする中、この見解が改めて確認されました。自動車のような高付加価値産業に進出することで、同社はより大きな潜在市場を獲得できるでしょう。
その他の市場:インドの回復
安定化と回復というテーマは、アジアの他の地域でも顕著でした。インドでは、長期にわたる高金利局面の後で、金融引き締めがようやく終わりに近づいている兆候がありました。
企業はどのように対応しているのでしょうか。多くの銀行は慎重で、融資を加速させる準備ができていませんでした。しかし、私たちの主要保有銘柄であるHDFC銀行は、顧客の信用力がさほど悪化していないことを明らかにしました。そのため、同行は次の景気サイクルに向けて融資を加速させやすい状況にあると見ています。
インドの生産的な投融資機会に関する私たちの見方は共感を得ました。企業から発せられたメッセージは、「最近の景気減速が深刻なものになる可能性は低く、中期的には前向きな見方をする構造的理由がある」というものです。
HDFC銀行
このインドの銀行は、インドでの融資拡大から恩恵を受けているため、増配の可能性があると私たちは考えます。銀行にとって、融資をして損失を出すのは簡単ですが、景気サイクルを通じて利益を生む融資判断を下すには忍耐と規律が必要です。HDFC銀行がバランスシートの強さを維持するために慎重姿勢を取っている一方、他の銀行は機会主義を採用しています。その堅固な信用およびリスク管理プロトコルは、利益重視の融資判断を促進するでしょう。
「解放の日」の後に何が起こるのか
本稿執筆時点で、4月2日に発表された対中関税は交渉のために90日間、一時的に145%から30%に引き下げられています(中国の相互関税は125%から10%に引き下げ)。それでも、こうした関税が影響を及ぼすことは明らかで、コスト優位性で勝負している製造業者への影響はより厳しいものになるでしょう。
しかし、より広い視点から見ると、中国経済の対米エクスポージャーは低下しています。その背景には、第1次トランプ政権の関税措置や、半導体などの主要産業を国内化するとともに、代わりの貿易相手国を見つけるという中国の決断があります。現在、中国のGDPに占める対米輸出の割合は推計でわずか2%に過ぎません。
図表1:中国の先進国向け輸出は過去20年で減少
ポートフォリオの観点からすると、これにより投資機会が生まれています。中国国内で私たちが引き続き優先しているのは、金融、不動産、輸出、インフラよりも健全なキャッシュフローと良好な成長やリターン見通しを持つ国内消費財産業とサービス業です。全体として、ポートフォリオでは依然として強固なバランスシートと安定したキャッシュフローを持つ国を選好しています。こうした国の株式は、私たちのボトムアップ基準を満たしており、バランスシートの強さ、キャッシュフロー、株主還元を重視する姿勢を反映しています。
上記に記載した企業は、例示のみを目的として選択されたものであり、投資推奨を意図しておらず、将来の運用成果を示唆するものでもありません。