新興国債券月次レポート – 2025年9月:地政学的緊張の高まりにも関わらず好調なリターン
本稿では、新興国債券の振り返りと見通しを紹介します。

所要時間: 2 分
日付: 2025年10月10日
9月も新興国債券は全体的にプラスリターンを記録しました。これは穏やかなリスク環境が支えとなりました。ハードカレンシー建てソブリン債(+1.8%)1はフロンティアソブリン債(+1.5%)2 を上回るパフォーマンスを示しましたが、新興国社債(+1.0%)3はやや出遅れました。現地通貨建て債券(+1.4%)4も好調で、月を通じて米ドルが概ね安定していたことが寄与しました。
9月は米国から相反する経済指標が相次ぎ、弱い雇用統計に続いて強いインフレ率と経済活動指標が発表され、政策見通しが複雑化しました。こうした背景のもと、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を25ベーシスポイント(bps)引き下げ、4.00%~4.25%としました。これにより米国債が支えられました。10年物米国債利回りは8bps低下し4.15%となり、ハードカレンシー建て新興国ソブリン債のリターンを押し上げるとともに、広範なリスク選好を後押ししました。原油価格は変動が激しく、OPECプラスが10月の追加増産を発表したものの、その規模は前月よりも小幅でした。供給増は、地政学的緊張の高まりやウクライナのドローン攻撃によるロシアの石油インフラ損傷によって相殺され、価格は7週間ぶりの高値を記録した後、月末には1.6%安の1バレル67.02米ドルで取引を終えました。
国別ニュース
9月に相次いで行われた新興国諸国の選挙の中で、アルゼンチンが特に注目されました。ハビエル・ミレイ大統領はブエノスアイレス州地方選挙で明らかな敗北を喫し、野党ペロニスト党が47.3%の得票率を獲得したのに対し与党リベルタ・アドバンティスはわずか33.7%にとどまり、あらゆる世論調査の予測を下回る結果となりました。この政治的不安定さがペソ安を招き、中央銀行はIMFが設定した取引幅を守るため介入を余儀なくされました。その後米国は支援策を講じ、為替安定化基金(ESF)を通じた中央銀行との200億米ドル規模のスワップラインや、発行済み米ドル建て国債の購入などが報じられています。こうした取り組みにもかかわらず、ペソは依然として2.5%下落し、新興国通貨の中で最低のパフォーマンスとなりました。
その他の新興国では、ロシアがウクライナへのドローン攻撃を強化し、初めてキエフの主要政府施設を攻撃しました。ウクライナ外相はこれを「重大なエスカレーション」と表現しました。一方、イスラエルがカタール国内でハマスの上級指導者会議を標的とした、極めて物議を醸す空爆を実施しました。カタール領内へのイスラエルによる初の攻撃と確認されたこの空爆は、カタールが仲介するガザ停戦協議を中断させました。米国は異例の批判を表明し、従来のイスラエル支持姿勢からの転換を示しました。その後、ネタニヤフ首相は外交的波及を認め、カタールに謝罪の意を表明しました。
格付け変更は全般的に再び好材料となりました。アフリカでは、フィッチがチュニジアの格付けをBマイナスに引き上げ、同国の対外収支の継続的な改善を反映しました。S&PはモロッコをBBBマイナスに格上げし、2010年にジャンク級に格下げされて以来の投資適格への復帰を果たしました。これは社会経済改革と財政改革の強力な推進力が評価されたものです。スリランカはアジアで唯一格上げされた国であり、S&Pは財政面の好転を理由に格付けを選択的債務不履行(SD)からCCCプラスに引き上げました。同国の予算は、投資と成長を促進しつつ、無駄遣いと汚職の削減を目指しています。ラテンアメリカでは、財政・債務改善の見通しから、ムーディーズがコスタリカの格付けをBa2に引き上げました。S&Pは制度・政策枠組みの強化を理由にジャマイカをBBへ、予想を上回る成長と税務コンプライアンスの改善を背景にバハマをBBマイナスへ格上げしました。こうした格付けの引き上げにもかかわらず、ポーランド(ムーディーズ)、タイ(フィッチ)、トリニダード・トバゴ(S&P)など、複数の国々では見通しが「ネガティブ」に修正されました。
見通し
ハイイールド債およびフロンティア市場には引き続き価値を見出しております。スプレッドは依然として低い水準ですが、構造改革と多国間の支援によって支えられており、格付け区分の上限付近にある特定のクレジットは、リスクが過大評価されていると考えられるため魅力的です。加えて、米国経済の減速は米国債相場の回復を後押しする見込みであり、これを受け投資適格級の新興国債券のアンダーウェイトが縮小しました。
現地通貨建て新興国債券市場では、多くの主要新興国で利下げサイクルが成熟期を迎えておりますが、成長鈍化、インフレ目標値近辺での推移、政策金利が過去平均値に対して依然高い水準にあることを踏まえ、中央銀行による金融緩和継続が予想されます。ラテンアメリカ地域の実質金利の魅力に加え、フロンティア市場中央銀行による追加利下げを見込むことから、同地域へのオーバーウェイトを維持します。新興国通貨については、特に中欧およびフロンティア市場の通貨に重点を置き、オーバーウェイトを拡大しました。
新興国社債については、クレジット・ファンダメンタルズは引き続き良好であり、投資対象ユニバースにおける米国関税の直接的な影響は限定的と見込まれます。企業が社債の返済を進めているため、純供給量も引き続きマイナスとなる見通しです。世界経済の成長減速に伴い、業績の下方修正が見込まれますが、レバレッジ水準は低水準を維持し、利払い倍率は健全な状態です。
この資産クラスに対する最大のリスクとしては、新たな関税導入による新興国の輸出や世界経済の成長を損なう可能性があり、さらに米最高裁判所が国際緊急経済権限法に基づく関税を無効とした場合の先行き不透明感の高まりが挙げられます。米国景気の減速や中国経済のさらなる減速は、特に原油をはじめとする商品価格に重くのしかかる可能性があります。一方、米国債イールドカーブのさらなるスティープ化は、フロンティア市場の発行体の資金調達コストを押し上げ、プライマリー市場へのアクセスを制限する恐れがあります。地政学的リスクも依然として高まっており、ウクライナ戦争の終結の見通しは立っておらず、中東の緊張は緩和されたものの、完全に解消されたわけではありません。
- JPモルガンEMBIグローバル・ダイバーシファイド指数
- JPモルガン NEXGEM指数
- JPモルガンCEMBIブロード・ダイバーシファイド(新興国社債指数)
- JPモルガンGBI-EMグローバル分散投資指数(米ドル建てヘッジなし)