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新興国債券月次レポート – 2025年10月:関税とFRBの利下げを巡る不確実性が続く中で底堅いリターン

本稿では、2025年10月の新興国債券のパフォーマンスと今後の見通しを概説します。

執筆者
Emerging market skyline

所要時間: 2 分

日付: 2025年11月11日

市場概況

10月、新興国債券は全体的にプラスのリターンを記録しました。株式相場が引き続き上昇し、信用スプレッドが縮小する中、この資産クラスは概ね良好なリスク環境の恩恵を受けました。よりリスクの高いフロンティア市場のソブリン債(+3.7%1)がハードカレンシー建てソブリン債(+2.1%2)をアウトパフォームした一方、社債(+0.6%3)は著しくアンダーパフォームしました。現地通貨建て債券(+0.5%4)も、米ドルが新興国通貨全般に対して上昇し、マイナスの為替リターンが発生したため後れを取りました。

10月は関税が再び話題の中心となりました。中国がレアアース(希土類)の輸出規制の強化を発表し、米国のトランプ大統領が中国製品に対して100%の追加関税を課すと威嚇したことで、米中貿易摩擦が激化しました。しかしその後、トランプ大統領と中国の習近平国家主席が韓国での会談において、10%の相互関税の一時停止を1年間延長することで合意し、緊張は緩和されました。また、米国がフェンタニル関税を20%から10%に引き下げることに同意したのに対し、中国はレアアースの輸出規制の一時停止に合意するとともに、米国産大豆の購入を確約しました。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は市場の予想通り、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を25bps引き下げ、3.75~4.00%としました。しかし、パウエルFRB議長が利下げは「既定路線ではない」と発言したことを受けて、12月の追加利下げの観測は後退しました。こうした背景で、米10年国債利回りは7bps低下して4.08%になりました。これは、月末時点としては1年以上ぶりの低水準であり、ハードカレンシー建て債券のリターンを支えました。

国別ニュース

国際通貨基金(IMF)と世界銀行は、ワシントンDCで年次総会を開催しました。IMFは、政策のファンダメンタルズの改善、予想よりも緩やかな関税、良好な金融環境を支えに、世界経済の成長が底堅いことを強調しました。ただし、政策のボラティリティは高い状況が続くと予想されています。世界経済の見通しは、従来予想されていたよりも米国の関税ショックが小さかったことを主な理由として、2025年4月の水準から小幅に上方修正されました。

10月は、多くの新興国で選挙が実施されました。ジョージアでは、親ロシアの与党「ジョージアの夢」が地方選挙での勝利を主張し、国内で抗議活動が巻き起こりました。アフリカでは、カメルーンのポール・ビヤ大統領(92歳)が8期目の当選を確実にしました。投票から2週間後に発表されたビヤ氏の再選は、野党の地盤で抗議活動や衝突を引き起こしました。中南米では、ボリビアの中道派ロドリゴ・パス上院議員が大統領選の決選投票で保守派のホルヘ・キティガ元大統領を破り、左派政党「社会主義運動(MAS)」による約20年にわたる支配に終止符を打ちました。モンゴルでは、ゴンボジャブ・ザンダンシャタル首相が議会の信任投票で敗北した後に辞任しました。これにより、今年に入って信任投票で失職した首相は2人目となり、政情不安に対する懸念が高まっています。

その他の地政学的な動向としては、ウクライナのゼレンスキー大統領と米国のトランプ大統領が、今月ワシントンDCで会談する計画を確認し、米国がウクライナへの支援を拡大することが期待されています。また、トランプ大統領は、戦争終結についてロシアのプーチン大統領と会談する可能性があるとも発表したため、停戦への期待が高まりました。しかし、トランプ大統領は後日、ロシアが平和へのコミットメントを欠いているとしてプーチン大統領との会談をキャンセルし、代わりにロシアの石油供給の約50%を占める大手石油企業のLukoilとRosneftに新たな制裁をかしました。加えて、欧州連合(EU)は、2027年1月以降のロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入禁止などを含む最新の制裁パッケージを発表しました。

10月も格付け変更はほとんどがポジティブな方向でした。アフリカに関しては、S&Pがエジプトの格付けをBに引き上げました。これは、同国の為替レートの自由化後の力強い成長、観光業および国外からの送金を反映したものです。また、ムーディーズは、債務削減見通しの改善、より強固な対外収支、マクロ経済の安定性向上を理由に、ガーナの格付けをCaa1に引き上げました。今回は、同国が2022年12月に債務不履行に陥って以降、2度目の格上げでした。一方、ムーディーズはセネガルの格付けをCaa1に引き下げ、見通しを「ネガティブ」としました。これは過去12ヵ月で3度目の格下げであり、高水準の債務、流動性逼迫の拡大、IMFプログラムの完了の遅れ、資金調達における地域市場への依存度の高まりを根拠としています。

中南米に目を向けると、フィッチはグアテマラをBBプラスに格上げし、堅調な成長、慎重な政策運営、経常黒字を理由として挙げました。S&Pはコスタリカの格付けをBBに引き上げ、そのわずか数週間前にはムーディーズも同国をBa2に格上げしました。そのほかでは、S&Pはバルバドスの格付けを、経済政策ガバナンスと信用力の改善を踏まえてBプラスに引き上げました。最後に、S&PはモンゴルをBBマイナスに、ムーディーズは同国をB1に格上げしました。これは、鉱業活動や積極的な公共投資に支えられた経済の力強い拡大と低水準の財政赤字への期待によるものです。

見通し

私たちは引き続き、ハイイールド市場とフロンティア市場には投資妙味があると判断しています。スプレッドは依然としてタイトですが、これは構造改革や多国間支援によって支えられています。また、格付け区分の境界線にある特定の銘柄はリスクが過大評価されており、魅力的と考えられます。加えて、米国経済の減速は米国債の上昇を後押しするとみられるため、投資適格の新興国債券のアンダーウェイトを縮小しました。

新興国の現地通貨建て債券市場では、多くの主要新興国の利下げサイクルが成熟しつつあるものの、成長が鈍化し、インフレ率が目標水準付近にとどまり、政策金利が過去の平均値と比べてなお高い水準にあることから、中央銀行は今後も金融緩和を継続する可能性が高いでしょう。私たちは、魅力的な実質金利を理由に中南米のオーバーウェイトを維持しているほか、フロンティア市場の中銀が追加利下げを実施すると予想しています。さらに、新興国通貨のオーバーウェイトを拡大しており、特に中欧やフロンティア市場の通貨に重点を置いています。

新興国社債に関しては、信用のファンダメンタルズは依然として良好で、投資可能なユニバースにおける米国の関税の直接的な影響は限定的と考えられます。新興国企業が引き続き社債を償還しているため、純供給は減少する見通しです。世界経済の成長が減速するのに伴い、業績は下方修正されるとみられますが、レバレッジ水準はなお低く、インタレスト・カバレッジも健全な状況です。

新興国資産に対する最大のリスクの一つは、新たな関税の賦課が挙げられます。こうした関税は新興国の輸出を脅かし、新興国が不利になるような政策につながる恐れがあります。また、米連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を無効とした場合、不確実性が高まります。米国の景気後退や中国経済の一層の低迷は、特に原油などのコモディティ価格を下押しする可能性があります。一方、米国債のイールドカーブのさらなるスティープ化は、フロンティア市場の発行体の資金調達コストを上昇させ、発行市場へのアクセスを制限するかもしれません。地政学的リスクも依然として高く、ウクライナ戦争の終結は見えず、中東における緊張は緩和したものの、完全に解消されたわけではありません。

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  1. JPモルガン NEXGEM指数
  2. JPモルガンEMBIグローバル・ダイバーシファイド指数
  3. JPモルガンCEMBIブロード・ダイバーシファイド(新興国社債指数)
  4. JPモルガンGBI-EMグローバル分散投資指数(米ドル建てヘッジなし)

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