ファンド・ファイナンス:保険会社にとっての投資機会
本稿では、ファンド・ファイナンスの概要と、なぜ保険会社のポートフォリオにおいて魅力的な要素となり得るのかを紹介します。

所要時間: 2 分
日付: 2025年10月07日
ファンド・ファイナンスは、ポートフォリオの分散やボラティリティの管理に役立つだけでなく、現金よりも高い利回りを得られる可能性があります。そして、ファンド・ファイナンスはその大部分が金利上昇環境から恩恵を得られる変動金利債務によって構成されていることから、今こそファンド・ファイナンスを検討する絶好のタイミングかもしれません。
ファンド・ファイナンスとは何か
ファンド・ファイナンス・ファシリティとは、プライベート・エクイティ、プライベート・クレジット、インフラ、不動産などのプライベート・マーケット・ファンドに対し、そのライフサイクルの様々な段階で提供されるローンです。多くの場合、市場は次の2つに分類されます。
- LPのコミットメントを裏付けとするサブスクリプション・ライン・ファイナンスリミテッド・パートナー(LP)のコミットメントの未使用枠に対する第一償還請求権によって裏付けられています。LPのコミットメントは通常、保険会社、年金基金、政府系ファンドなどの優良投資家によるものです。
- ファンドの純資産価値(NAV)を担保とするファイナンス(NAVファイナンス)一般的にライフサイクルの後期にあるプライベート・マーケット・ファンドの多様な原資産ポートフォリオやキャッシュフローを担保とします。
なぜファンド・ファイナンスなのか
上記のようなファシリティが投資家とマネジャー/ジェネラル・パートナーのいずれにとっても有益になり得るのには、次のような、いくつかのオペレーション上および財務上の理由があります。
- マネジャーに投資活動を賄う資金が数日以内に提供される。投資家から資金を引き出す場合、はるかに長いドローダウン(資金拠出)通知期間が必要
- キャッシュコールのタイミングがより明確になり、投資家は自らのキャッシュフローを管理しやすくなる。
- 投資活動のブリッジ・ファイナンスとして利用することで、キャッシュコールを一本化して投資家からのドローダウンを遅らせることができる。
- 投資家からのドローダウンを遅らせることで、初期収益率(IRR)ベースのリターンを高められる。
投資機会
ファンド・ファイナンスの投資機会は世界全体で1兆米ドルを超えています[1]。プライベート・マーケット・ファンドの規模が拡大するのに伴い、こうした投資機会は今後数年で大幅に増える見通しです。
現在は世界最大手のいくつかの銀行がこの市場を支配していますが、魅力的なリターンが得られるため、今では新たな銀行がシンジケーション・レベルで参入してきています。
実際、ファイナンス・ファシリティの規模がますます大きくなっていることから、主幹事銀行は通常、ファシリティを他の複数の銀行を含めてシンジケート化し、リスク・エクスポージャーを削減します。なぜなら、銀行は多くの場合、セクター別の与信限度額やカウンターパーティー・リスクの上限を管理しなければならないからです。シンジケート化によってこれらを管理することができます。
しかし、他の銀行は直接的な競争相手であるため、主幹事銀行は融資プログラムに参加する非伝統的な貸し手をますます求めるようになっています。そこで保険会社の出番です。
なぜファンド・ファイナンスは保険会社にとって魅力的なのか
ファンド・ファイナンスは、次のような特徴から、資本効率の高い投資など、保険会社の財務目的に適しています。
- 魅力的な信用力
- 短いデュレーション:満期は2~5年
- パブリック・クレジット市場と相関の低いリターン
- 低いボラティリティと信用リスク
- 強力な構造的プロテクション(図表1)

ファンド・ファイナンス戦略は、利回り向上の可能性も高めます。LPのコミットメントを裏付けとする戦略は基準金利を165~300ベーシスポイント(bps)上回るリターン、NAVを担保とする戦略は基準金利を160~500bps上回るリターンを目指すことができるでしょう。
NAVファイナンスと比べたサブスクリプション・ファイナンスのメリットは何か
日本ではNAVファイナンスが定着しており、多くの投資家がこれをファンド・ファイナンスの既定の選択肢とみなしています。しかし、サブスクリプション・ファイナンスはNAVファイナンスと比較して、信用リスクの分散度が高く、デフォルト・リスクが低く、株式市場やその他のクレジット資産との相関が低い、安定したインカムを生み出す資産を求める保険会社に適しています。
さらに、NAVファイナンスの期間が通常5年程度であるのに対し、サブスクリプション・ラインは期間が短く、多くの場合2年未満であり、保険会社の流動性管理などのニーズと合致すると考えられます。また、リスク調整後リターンの観点からもかなり魅力的になり得ます。
なぜ経験豊富な運用マネジャーを通じてファンド・ファイナンスにアクセスするのか
融資市場は総じて銀行の専門分野とされてきました。しかし近年、規制強化を受けて、銀行は銀行以外の投資家と共同投資するようになっています。そして、このような投資家にとって案件の発掘は困難です。
プライベート・マーケットのファンド・マネジャーは通常、急な要請に応じて様々な通貨で柔軟に資金を提供できるファンド・ファイナンスの貸し手と仕事をしたいと考えます。これは、ファンドの法的文書や仕組みに詳しくない投資家にとっては大変なことかもしれません。
融資やファンドの書類には複雑な内容が含まれていることも、多くの投資家にとって障害となり得るでしょう。プライベート・マーケットのファンド・マネジャーの実績や戦略、投資家基盤について必要なデューデリジェンスと信用評価を実施することは、困難で時間がかかる場合があります。加えて、各ローンの継続的な資金管理やモニタリングも行う必要があります。こうした状況で、ファンド・ファイナンスの運用マネジャーは、保険会社がファンド・ファイナンス市場に参加するための効率的な方法を提供することができます。
日本の規制枠組みの下でのファンド・ファイナンス
ソルベンシーIIの下で、欧州と英国の保険会社は資本効率が高く、分散化した短期利回りの源泉としてファンド・ファイナンスにますます魅力を感じています。しかし、ソルベンシーIIはよく知られ、確立された枠組みですが、日本は規制環境が大きく変化している最中にあり、現在は経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)と日本版の保険資本基準(ICS)資本要件が導入される過程にあります。
日本の規制環境の変化によって、ファンド・ファイナンス・ソリューションの資本規制上の取り扱いやリスク管理に関して認識のズレが生じる可能性があるものの、日本版ICSとソルベンシーIIとの整合度を考えると、ファンド・ファイナンス・ソリューションは日本の保険会社にも同様の機会を提供できるでしょう。ファンド・ファイナンス投資は、上述した強力な構造的クレジット・プロテクションも手伝って、同じ特性(格付けや満期など)を持つ社債よりも資本規制上の取り扱いが有利になると予想されます。
2026年の日本版ICSの導入に伴い、短期的には監督当局の監視強化や、これまでよりも保守的なスタンスが予想されるため、金融庁によるタイムリーな関与が求められています。それでも、アバディーンでは、保険会社が頑健な評価、流動性、クレジット・プロテクション、法的リスクの評価能力を実証できると考えています。
ファンド・ファイナンスの運用マネジャーの選定においては何が重要なのか
ファンド・ファイナンスの運用マネジャーを選ぶ際には、信用や流動性の管理、為替ヘッジ、そして言うまでもなくオペレーション、法律、ストラクチャリングの専門知識など、幅広い能力を持つマネジャーを検討するのが賢明だと、アバディーンは考えます。
また、プライベート・エクイティ・ビークル、マネジャー、投資家についてファンド・ファイナンス・マネージャーが継続的に綿密なデューデリジェンスを実施しているかも考慮すべきでしょう。この市場で活動しているすべての有力銀行が提供する融資プログラムへのアクセスも不可欠だと考えます。
このような人脈とスキルを持つ運用マネジャーは、顧客の特定の要件に対応するために、様々な通貨のローンのほか、幅広い期間やプライシングの選択肢を提供してくれる最有力候補でしょう。こうしたデューデリジェンス能力やキャッシュフロー管理能力を持つ運用マネジャーは、顧客に優れたサービスを提供することができ、顧客の時間を節約するとともに、顧客が他の利回り向上機会を追求することを可能にしてくれると考えます。
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- Prequin、2025年2月
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