私はよく、「1兆米ドルのファンド・ファイナンス市場は、多くの人が耳にしたことがない最大の資産クラスである」と言っています1。この市場は、プライベート・マーケットに精通している機関投資家にもあまり知られていません。
これは残念なことです。なぜなら、ファンド・ファイナンスの一角を占める「サブスクリプション・ライン」ローンは、より高い信用リスクなしに、投資家に2%ポイント高いリターンをもたらすことが可能と考えるからです。さらに、他の資産クラスだけでなく他のプライベート・マーケット資産との相関も低い、安定した投資適格級資産も提供してくれます。
米国発のショックが毎日のように押し寄せ、株式市場が動揺し、債券投資家がインフレ率と金利の方向性を見極めようとしている目下の不透明な世界において、これは見逃せない機会です。
「サブスクリプション・ライン」を理解する
サブスクリプション・ライン・ファシリティは、プライベート・エクイティ、プライベート・クレジット、インフラストラクチャー、不動産を含むプライベート・マーケット・ファンドが利用する資金調達の一種です。
これらは基本的に短期融資であり、ファンド・マネジャーは投資家にすぐにキャピタル・コールをしなくても、投資資金を素早く入手することができます。
貸し手は通常、銀行ですが、私たちを含む一部の資産運用会社は、保険会社、年金基金、政府系ファンドといったお客様の利益のために、こうした融資を提供するのに必要な専門知識を培ってきました。
サブスクリプション・ライン・ローンの利回りは、公開市場で取引されている期間とリスクが同程度の比較可能な債券を60~200bps(0.6~2%)ほど上回る可能性があります。
サブスクリプション・ラインはリスクが低いと考えられています。投資家のファンドに対するコミットメントの未使用枠を裏付けとする「シニア」ローンであり、分散された担保プールを持つため、デフォルト・リスクが低いことが時間とともに明らかになっています。
借り手がより高い金利を支払う理由
借り手がより高い金利を支払う理由として、次の2つが挙げられます。
- 非流動性プレミアム:これは、すぐに売却するのが難しい債券やローンを保有することに対して、投資家が要求する追加リターンです。このような資産は流動性が低いため、投資家は必要なときにすぐに売却できないリスクに対する補償を求めます。
- 複雑性(利便性)プレミアム:サブスクリプション・ラインは、専門的な知識を必要とし、財務構造がより複雑であるため、利回りが相対的に高くなります。例えば、借り手は資金を24時間以内に提供できる多通貨建てのリボルビング・クレジット・ファシリティを必要とするかもしれません。こうした複雑性により、利回りが25~50bpsほど高くなる可能性があります。
ミドル・マーケットのスイート・スポット
現在、最良の投資機会は「ミドル・マーケット」にあると考えます。この市場では、年間売上高が1,000万~10億米ドルの「ミドル・マーケット」企業に投資する「スポンサー」にサブスクリプション・ライン・ローンが提供されます。
また、これらのスポンサーは通常、誰もが知っている大手投資会社(アポロ、KKR、ブラックストーンなど)よりも小規模ですが、それでも優れた実績を持つ優良な借り手です。
理解すべき重要な点は、こうした融資のリスクが大手投資会社への融資と同程度になり得るということです。一方で、このようなより規模の小さい借り手への融資はさほど競争が激しくないため、貸し手にとっては融資のプライシングがなお魅力的に見えることがあります。
貸し手はミドル・マーケットに参入することで、規模を活かしてより安価な融資を得られる大手投資会社に融資するより50bpsも高い金利を受け取ることができると見ています。
だが、なぜ今なのか?
プライベート・マーケットの価格データを入手するのは簡単なことではありません。とはいえ、私たち自身の経験に基づくと、非流動性プレミアムは過去の平均と比べて非常に魅力的な水準にあります。
ファンド・ファイナンス全般に関して、2024年末までの6年間に、比較可能なプライベート・デット(プライベート・クレジット)と公開市場債券の利回りスプレッド(差)は平均94bps程度でした。昨年、このスプレッドは一部の取引で173bpsに達しました2。
サブスクリプション・ライン投資家の絶対リターンは、ポンド翌日物金利加重平均(SONIA)、担保付翌日物調達金利(SOFR)、欧州銀行間取引金利(EURIBOR)などの変動金利指標を185~300bps上回る可能性があります。
大まかな目安として、米ドルの翌日物借り入れのコストを示すSOFRは3月28日時点で4.34%であり、これに控えめな数字として185bpsを加えると、リターンは6%を超えます。
おわりに
業界の報告書によれば、ファンド・ファイナンスの年間需要は6,000億米ドルを超えており、プライベート・マーケット・ファンドの規模が拡大を続けるのに伴い、この数字はより大きくなる見通しです。
サブスクリプション・ライン・ファシリティはファンド・ファイナンスの世界で重要な役割を果たしており、機関投資家に対して、同水準のクレジットリスクでより高い利回り、安定したインカム収入、分散効果という魅力的な組み合わせを提供し得ると考えます。
- Preqin、February 2025年2月
- アバディーン、2024年12月31日