マクロ:新たな世界秩序の中で投資のあり方を変える6つのテーマ
地政学的緊張、経済の分断化、資産クラス間の相関の変化が、投資環境を根本的に変えつつあります。こうした動向を理解することは、レジリエンス(耐性)と機会を求める投資家にとって不可欠です。

Part of
The Investment Outlook
所要時間: 2 分
日付: 2025年11月13日
国際金融と政治の地殻変動が続く中、投資家はリスクの高まりと新たな機会の両方に直面しています。本稿で紹介する6つのテーマは、この進化する環境を理解するためのロードマップとなるでしょう。
地政学リスク:ニューノーマル
地政学リスクは今や、投資環境における恒久的な要素となっています。世界は比較的安定していた局面から、絶え間ない不確実性を特徴とする局面へと移行しています。
権力が世界の複数の主体間でますます分散している一方、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった従来からの国際機関は安定をもたらす力を失いつつあります。かつては安全保障の源泉であった経済的相互依存は今では、関税、技術規制や重要鉱物の支配を通じて「武器化」されかねない状況にあります。
投資家にとって、これは地政学的ショックがより頻繁に発生し、混乱を引き起こす可能性が高いことを意味します。地域分散、耐性の高いセクター、頑健なシナリオ分析を通じてこれらのショックに耐えられるポートフォリオを構築することが、かつてないほど重要になっています。
経済の分断化:勝者と敗者
グローバル化は経済の分断化に取って代わられつつあります。貿易障壁は高まっており、4月以降、米国の平均関税率は上昇しています。現在では米中関係が世界経済の連携を左右する中心軸となり、製造業の意思決定や資本フローに影響を与えています。
しかし、分断化がすべての国にとって損失を意味するわけではありません。メキシコや東欧諸国など特定の国は、貿易パターンの変化や新たな製造拠点から恩恵を受けるのに有利な立場にあります。
サプライチェーンの耐性、重要鉱物、「将来性のある」不動産に関連するセクターも、新たな機会を提供する可能性があります。報道の先を見据え、成長が見込まれる地域やテーマを特定する投資家が、最も優位になるでしょう。
分散:従来の戦略の再考
株式60%/債券40%の伝統的なポートフォリオは、長年にわたり分散投資の標準と見なされてきましたが、その有効性を失いつつあります。
現在の経済情勢を支配しているのは、需要ショックではなく供給ショックです。地政学的要因、気候変動、パンデミックによる混乱は、経済成長を抑制すると同時にインフレを加速させる傾向があります。その結果、かつては逆の動きをしていた株式と債券は、今では一緒に上昇したり下落したりすることが多くなっています。
伝統的なポートフォリオの分散手法では、分散効果が十分に得られにくくなっています。そのため、投資家はプライベート・マーケット、コモディティ、マクロ経済の変動に左右されにくい資産に代替的な解決策を求めています。この新たな世界秩序の中で耐性を得るには、より洗練された柔軟性の高いポートフォリオの構築が不可欠です。
中央銀行の独立性:高まる圧力
現代金融の礎石である中央銀行の独立性は、前例のない試練に直面しています。米連邦準備制度理事会(FRB)などの機関に対する政治的圧力が高まっており、新たな人事や法的問題が中銀の体制や政策の方向性を変える恐れがあります。
世界的に、中銀は政治的な議論に巻き込まれることが増えており、気候変動目標や社会的目標など、物価安定以外の目標も課されるようになっています。その結果、金融政策の予測可能性が低下し、投資家が政策当局のインフレ抑制能力への信頼を失い、市場のボラティリティが増大するリスクがあります。
投資家はこうした政策の変化を注視し、金利や資産価格におけるより広範な結果に備える必要があります。
債券市場からのシグナル:債務と財政赤字
世界の債務水準は歴史的な高水準に達しており、多くの主要国で債務の対GDP比率が100%を超えています。米国では、財政赤字が完全雇用に近い時期にはめったに見られない水準で推移しています。
債務返済コストの増加が長期国債の利回りに上昇圧力をかけている一方、フランス、英国、日本といった国の政情不安は不確実性をさらに高めています。債券市場危機の可能性は、私たちの基本シナリオではないものの、無視できないリスクです。
これはポートフォリオの構築や、金融モデルで使用されるリスクフリーレート(デフォルト・リスクがゼロの投資、すなわち「最も安全な」投資の理論上のリターン)に広範な影響を及ぼします。市場がこうした新たな現実に適応する中で、警戒と柔軟性が不可欠となります。
米国株式市場への集中:他に目を向けるべき時
過去数年には、ごく一部の米国大手テクノロジー株が世界の株式リターンを支配しており、その結果、市場の集中度が高まり、バリュエーションが割高になっています。
このトレンドは好調なパフォーマンスをもたらしていますが、同時に脆弱性も生んでいます。実際、私たちの戦略的資産配分に関する分析によると、米国株式のリターンは今後5~10年には他の資産のリターンを下回る可能性があります。より魅力的な機会は、バリュエーションが相対的に割安で、構造的な追い風が生まれつつある中国、アジア全般、欧州の一部で見いだせるかもしれません。
リターンの地理的な源泉の拡大はすでに始まっており、米国株からより大きな価値を提供する地域への資金のシフトが、今後を特徴づけるテーマとなる可能性があります。国際的に分散投資し、割安な市場を探す投資家は、資本の長期的な成長を実現するうえでより有利な立場に立てるでしょう。
おわりに
投資の世界は、より適応性が高くグローバルな視点を持ったアプローチを要求する力によって変化しつつあります。地政学リスク、経済の分断化、市場動向の変化、そして株式市場の牽引役の交代は、投資家に従来の戦略を再考し、新たな分散投資の源泉を活用することを求めています。
このような環境で成功するには、政策の変化を予測し、耐性の高いセクターや地域を特定し、柔軟性が高く将来を見据えたポートフォリオを構築する能力が鍵となります。新たな世界秩序が進化し続ける中、機敏さを保ち、構造的な変化を積極的に受け入れる投資家が、不確実性に対応し、長期的な成長を捉えるうえで最も優位になるでしょう。
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