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The Investment Outlook

新興国債券:トランプ氏の復帰が投資機会にどのような影響を与えているか

新興国はトランプ氏の再選に適応しており、関税とボラティリティを乗り切っています。2026年には、底堅い経済と高い利回りが投資家にとって新たな機会を生み出すのでしょうか。本稿では、執筆時現在で新興国債券市場を動かしている要因について説明します。

執筆者
インベストメント・スペシャリスト(債券担当)
シニア新興国市場エコノミスト
sytlised image suggests emerging market companies showing resilience

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The Investment Outlook

所要時間: 2 分

日付: 2025年11月13日

トランプ氏が2024年11月5日の米大統領選挙で勝利を収め、劇的な政界復帰を果たしてから1年が経過しました。

トランプ氏のホワイトハウスへの復帰は、世界貿易の不確実性を再び高め、いわゆる「解放の日」関税の発動に発展し、金融市場全体に衝撃を与えました。

新興国にとって、過去12ヵ月はボラティリティ、レジリエンス(耐性)、適応を特徴とする、ジェットコースターのように浮き沈みが激しい期間となりました。

嵐の後の静けさ

当初の混乱にもかかわらず、新興国は関税ショックを驚くほど巧みに吸収しました。しばしば米国の貿易措置の焦点となる中国は、その影響を概ね回避しました。政策当局は輸出先を変更したほか、グリーン投資を強化することで成長の勢いを維持しました。

他の新興国は、複数の追い風を受け、投資環境が改善しました。具体的にはまず、米国における人工知能(AI)技術の導入が、部品やサービスに対する世界的な需要を押し上げました。また、ドル安が金融面の圧力を緩和し、各国中央銀行による利下げを可能にしました。さらに、米国政府が最終的に最も攻撃的な関税措置の方針を後退させたことで、投資家心理の改善に寄与しました。

すばらしい新世界

トランプ氏の復帰を受けて、新たな世界貿易体制の輪郭が形作られ始めています。米国といくつかの主要貿易相手国の間で、従来の貿易協定よりも非公式で、はるかに詳細を欠く「枠組み」協定が結ばれています。

とはいえ、米中間でここにきて再燃した緊張は、この新たな体制の脆弱性を浮き彫りにしています。米連邦最高裁判所が、トランプ大統領による国際緊急経済権限法(IEEPA)の行使を無効と判断した場合、これらの非公式な取り決めの多くは執行力を持たない可能性があります。

判事らは2025年11月の第1週に口頭弁論を行っており、年内に判決が下される見通しです。

2026年を展望する

米国の通商政策、および米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げのペースと幅が、世界の流動性と新興国に対する市場のセンチメントを決定する重要な要因になるとみられます。

FRBは、関税引き上げによるインフレへの遅行的な影響を警戒するでしょう。しかし、労働市場データ、特に非農業部門雇用者数の弱さが、さらなる金融緩和に動く十分な動機となるはずです。

関税および厳格化な移民政策による米国の潜在成長力への悪影響は好ましくありませんが、それは少なくとも米ドルに下落方向の圧力をかけ続けると考えられます。

新興国では、中国の製造業の過剰生産能力によるディスインフレ圧力が、さらなる物価の抑制に寄与する可能性があります。また、政府予算の引き締めも一定の役割を果たすでしょう。

これらすべての要因は、新興国の中央銀行が政策金利を引き下げるうえでの障壁を減らし、新興国債券市場にとって良好な環境を生み出す助けになると考えらます。

そこで問題は、こうした競合する要因が、新興国債券の投資家にとって何を意味するのか、ということです。

以下で詳細に分析してみましょう。

ハードカレンシー建て新興国債券:潮目の変化

信用スプレッドは2024年から2025年にわたって縮小しており、その動きは格付けの低い銘柄、すなわちCCC格の銘柄や、対外債務がデフォルト状態にある、またはデフォルトから脱却しつつある銘柄で最も顕著になっています。

大半のクレジット市場と同様、スプレッドはタイト化しており、新興国債券に関する論調は変化しています。執筆時現在、足元では、キャリー取引が最も重要になっています。米国のハイイールド債の利回りが8%であるのに対し、代表的な新興国債券の利回りは8.5%となっています。フロンティア市場では利回りは10%を超えており、これは他のほぼすべての債券市場分野と比較して魅力的なリターン水準です。

皮肉なことに、この資産クラスは2年にわたる堅調なパフォーマンスにもかかわらず、3年連続で資金が純流出しています。しかし、投資家の姿勢は変化し始めています。

4月上旬以降、ハードカレンシー建てソブリン債は11週連続で資金流入を記録しています。JPモルガンによると、資金流入額は4月に−98億米ドルで底を打ち、足元では年初来で+40億米ドルまで回復しています。

こうした変化の背景には何があるのでしょうか。新興国ソブリン債のファンダメンタルズが改善していることが挙げられます。多くの高利回り発行体に対して、発行市場が再び開かれています。いくつかの国は償還スケジュールに余裕があり、財政赤字も縮小しています。過去数週間には、アンゴラとケニアが新規債券を発行する一方で満期のより短い債券を買い入れ、実質的に償還スケジュールを先送りしています。

年内には、ナイジェリアやヨルダンなども市場に復帰すると予想されています。重要な点は、米国の政策決定は新興国債券のリターンを左右する1つの要因に過ぎないということです。

そのため、私たちは2026年に向けて、この資産クラスに対する強気の姿勢を維持しています。

現地通貨建て新興国債券 – さらなる上昇余地

現地通貨建て債券市場に目を向けると、私たちは引き続き強気の見方をしており、米ドルの下落と新興国金利の低下がリターンを支えると考えています。JPモルガンGBIグローバル・ダイバーシファイド・インデックスは2025年に15%を超えるリターンを達成しており(2025年10月17日時点)、このうち6%以上が為替による利益です。

現地通貨建て戦略への資金流入額は合計70億米ドル余りと、規模としては控えめではあるものの、過去数年と比較して顕著な改善を示しています。

上述したように、2025年末に向けたFRBの利下げはドルの上昇圧力を緩和するとともに、新興国中央銀行に対し、必要に応じて金利を引き下げるより大きな余地を与えるでしょう。

私たちは、2026年も金利と為替の両面から、現地通貨建て債券が引き続き堅調なパフォーマンスを示すと予想しています。

これに加えて、投資家が米国から現地通貨建て新興国債券への分散を進めることが、このセクターを支えるでしょう。過去には、米国の大手資金運用会社は新興国債券からプライベート・クレジット(本質的には米国資本市場への投資)に配分をシフトしていました。

こうしたトレンドは今や反転しつつあります。保険会社や年金基金といった大規模な機関投資家が資産配分を見直すのには時間がかかるため、その進行は緩やかではあるものの、これは長期的に続くトレンドであると考えられます。

おわりに

トランプ氏のホワイトハウスへの復帰は、政策決定から関税に至るまで、新興国に試練を与えています。しかし、多くの国はこの復帰を乗り切るにとどまらず、力強さを見せています。いくつかの国は財政状況が良好であり、第1次トランプ政権以降、貿易関係を再調整しています。

米ドル安と新興国の利下げが、この資産クラスをさらに支えています。

投資家にとって、一桁台後半の利回りは依然として、債券市場全体で屈指の魅力的な水準です。そのため、私たちは2026年に向けて、新興国債券に対する強気の姿勢を維持しています。

本内容は、原則として機関投資家のお客様への情報提供を目的として作成・公開しています。

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