新興国株式:次のサイクルに向けたイノベーションと分散の推進役
新興国は今後数年間は、世界の成長を牽引する可能性があります。本稿では、変化する世界において、投資家がどのように株式ポートフォリオ戦略を見直すことができるかを探ります。

Part of
The Investment Outlook
所要時間: 2 分
日付: 2025年11月13日
世界の市場が2026年を展望する中、新興国市場は次の投資サイクルを形作るうえで極めて重要な役割を果たす位置にあります。
今年初めには、投資家が人工知能(AI)を巡る楽観論や第2次トランプ政権の政策に対する期待に牽引されていた米国株の上昇を追ったことから、新興国市場へのアロケーションは数年ぶりの低水準に落ち込みました。
これまでのところ、こうした米国株への集中投資は功を奏していますが、ポートフォリオは集中リスクと、「完璧なシナリオを織り込んだ」バリュエーションにさらされています。
このような状況で、新興国市場は、「キャリー」、「設備投資」、「割安感」という3つの構造的なドライバーに支えられ、魅力的な代替投資先になっていると考えられます。
キャリー:通貨の追い風
歴史的に、米ドルのサイクル(他の通貨に対する上昇・下落)は、新興国資産のパフォーマンスに影響を与えてきました(図表1)。
図表1:米ドル安は新興国市場の強さを意味する
「キャリー」とは、新興国資産に投資する投資家が、米ドルの下落時に享受するプラスの為替効果を指します。こうした新興国資産への投資は通常米ドル建てであるため、米ドル安環境で価値が上昇することになります。
米ドルの強さは、世界の流動性フローによって下支えされています。長年にわたり、米国債が究極の安全資産として認識されていることや、米国資本市場の支配的な地位に後押しされ、余剰資金は米国資産に向かってきました。このダイナミクスは、賃金の伸びとインフレの鈍化にもかかわらず、米国資産の高いバリュエーションを支えてきました。
しかし、こうした流動性体制は弱体化しつつあります。トランプ大統領の財政スタンス、すなわち減税、規制緩和、「One Big Beautiful Bill(1つの大きく美しい法案)」は、米国の財政赤字を大幅に拡大させる見通しです。米財務省が短期債の発行に軸足を移していることは、短期的には流動性の流入を維持するかもしれませんが、債券利回りの上昇や潜在的なショックに対する脆弱性も高めています。これは言い換えれば、「流動性によって生かされ、流動性によって滅ぼされる」という状況です。
米国の財政の信頼性が低下するのに伴い、米ドルは持続的な下落圧力に直面しています。しかし、新興国市場にとっては、これは状況を一変させるものです。なぜなら、米ドル安は以下のことを意味するからです。
- 米ドル建てで借り入れを行う新興国の企業や政府の債務返済コストの低下
- 新興国通貨の上昇に伴う国内消費の活性化
- 投資家が米国以外の地域でより高い実質リターンを求めることによる資本フローの反転
こうした流動性のシフトは、新興国の中央銀行が利下げを実施する用意があることや、より規律ある財政スタンスと相まって、新興国投資に長期的な為替の追い風を生み出しています。私たちは、「キャリー」が2026年以降のリターンの構造的なドライバーになると考えています。
設備投資:新興国産業への世界の投資フロー
新興国市場は歴史的に、世界の設備投資が高い水準にある時期に恩恵を受けてきました。しかし2021年以降、この相関関係は以下の理由で崩れています。
- 中国の景気減速:不動産市場のストレス、消費の低迷、投資家の慎重姿勢が、世界的な投資の急増にもかかわらず、新興国市場のリターンを抑制しました
- 米国のテクノロジー企業の優位性:「マグニフィセント・セブン」が米国で力強い株式の上昇を主導し、投資家の注目を集めました
今後に目を向けると、状況の反転が見込まれます。脱炭素化、デジタル化、防衛という3つの構造的なテーマに牽引され、数十年に一度の設備投資サイクルが始まっています。これらのテーマは、インフラ、サプライチェーン、および産業の生産能力を大きく変えつつあり、新興国はこの変革の中核に位置しています。
中国は依然としてAI開発とインフラにおける戦略的なプレイヤーであり、競争力のあるエネルギー価格と膨大なデータセットがイノベーションを推進しています。不動産市場や消費における逆風にもかかわらず、政策支援により収益の成長を実現することが可能です。
しかし、新興国の力強さは、中国のみに依存しているわけではありません。世界の設備投資は、アジア、中南米、欧州に広がりつつあり、新興国のリーダー企業がAIチップ、電力網のアップグレード、重要資源などの分野を牽引しています。
一方、米中の対立は、新興国からの投入物(資源や製品)に対する需要を高めています。例えば、米国の再工業化は、海運や電力インフラといった分野の需要を押し上げるとみられ、こうした分野では新興国企業が資源や専門知識の提供において極めて重要な役割を果たしています。
割安感:魅力的なエントリーポイントと分散
新興国市場は2025年の力強いパフォーマンスにもかかわらず、先進国市場と比べてバリュエーションが魅力的であり、MSCIワールド・インデックスと比較すると、長期平均利益に対して大幅に割安な水準で取引されています(図表2)。
図表2:新興国市場は先進国市場と比較してなお割安に見える
このバリュエーションの差は、ファンダメンタルズによって正当化されていません。新興国市場と先進国市場はボラティリティの面では収斂していますが、新興国株式は依然として、構造的により不安定であるかのようにプライシングされています。これは、株価が再評価される可能性を示唆しています。
新興国市場は、セクターや地域の観点でもより大きな分散効果をもたらします。米国株式のパフォーマンスが少数のハイテク銘柄にますます集中している一方、新興国市場は資本財、ヘルスケア、IT、素材といった多様なセクターに分散されています。この資産クラスには、国内需要や新興国間の貿易への大きなエクスポージャーを持つ各国の大手企業も含まれています。
例えば、インドの例を考えてみましょう。2025年には、AIへの限定的なエクスポージャーや関税関連の逆風によりインド市場はアンダーパフォームしていますが、そのAIとの相関の低さが、他の「完璧なシナリオを織り込んだ」市場に対する有力なヘッジとなります。
さらに、インドは、強力な国内企業、消費を後押しする利下げの余地、国内資金によって深化する資本市場といった要因に支えられ、長期的な成長ストーリーとして際立っています。
おわりに
投資家が2026年に備える中、「キャリー」の好ましいダイナミクス、世界的な設備投資の復活、魅力的なバリュエーションという構造的な追い風が、新興国市場が持続的にアウトパフォームし、投資家のポートフォリオにおいてより重要になるとの見方を引き続き裏付けています。
本内容は、原則として機関投資家のお客様への情報提供を目的として作成・公開しています。




