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債券が本来の役割を果たさなくなったとき:なぜ短期債が再び注目されているのか

短期債と低リスクな運用の意義をあらためて検証する

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過去数十年にわたり、投資家はあるシンプルな経験則を頼りにしてきました。それは、「株式市場が不安定になると、債券が安定性をもたらす」というものです。

多くのシナリオにおいてこの関係は依然として有効ですが、最近の市場の動きは、それが保証されたものではなく、あくまで条件付きであることを改めて浮き彫りにしました。

世界の債券市場は今年3月、ここ数年で最大級の下落に見舞われました。株式市場が圧力にさらされる中でも、米国、英国、欧州のすべてで利回りが急上昇したのです。

きっかけは、経済成長の鈍化や金融ストレスではなく、米国とイランの紛争によって原油価格が1バレル100ドルを超えたことで引き起こされたインフレ・ショックでした。その結果、株式と債券が同時に下落するという、2022年の苦い経験を思い起こさせる展開となりました。

分散投資や資本の安定性を債券に求める投資家にとって、この出来事は厄介ながらも避けて通れない疑問を突き付けています。すなわち、「債券が本来の役割を果たさなくなったとき、何が起きるのか」という問いです。

投資家がプロテクションを期待した局面で債券はなぜ下落したのか

国債はしばしば「無リスク」と称されます。ある意味では、それは事実であり、先進国政府がデフォルトに陥るリスクは極めて低いと言えます。しかし、大半の投資家が債券市場で損失を被る理由は、デフォルトではなくデュレーションにあります。

デュレーションは、金利の変化に対する債券価格の感応度を示す指標です。満期までの期間が長いほど、この感応度は高くなります。大まかな目安として、デュレーションが10年の債券は、利回りが1%ポイント上昇すると、他の条件が一定であれば、価格が約10%下落します。

これこそが3月に発生した問題でした。原油価格の上昇により、インフレが予想よりも長期にわたって高止まりするとの懸念が再燃しました。その結果、市場は中央銀行の政策軌道に関する想定の見直しを余儀なくされ、イールドカーブ全体、特に長期ゾーンの利回りが押し上げられました(図表1)。

図表1:2026年3月の英国債利回り(1ヵ月~30年)

また、これと同時に別の変化も生じました。それは「タームプレミアム」です。タームプレミアムとは、インフレの不透明感やボラティリティが高まった際に、投資家が長期債を保有する対価として求める上乗せ利回りのことです。タームプレミアムが拡大すると、成長懸念が高まっていても長期利回りが上昇することがあり、デュレーションの長い債券は複数の面から下落リスクにさらされることになります。

3月にはこれが現実となった結果、債券と株式を同時に保有していても痛みを伴うという、異例の厳しい状況となりました。

リスクを再考する:デュレーションの短縮とレジリエンス(価格下落耐性)の向上

こうした出来事を受けて、投資家はポートフォリオ内におけるリスク配分のあり方を再考しています。デュレーションを長期化させたり、債券を自動的な緩衝材として頼りにしたりするのではなく、多くの投資家が資本の保全と運用成果の管理に再び焦点を当てています。

債券へのアロケーションにおいては、それは多くの場合、金利変動への感応度を低下させ、キャッシュフローの確実性を優先することを意味します。通常、満期まで1~3年の債券で運用される短期債戦略は、まさにそのために設計されています。

長期債と比較して、短期債戦略は将来の金利の道筋について「正解」を出すことへの依存度が格段に低くなります。こうした戦略は、満期が短く価格変動が抑えられるだけでなく、市場が不安定になっても、投資家が債券を償還まで保有し続けることを可能にする場合が多いのです。

短期債が異なる挙動を示す理由

短期債の魅力を理解するには、基本原則に立ち返るのが有用です。

デュレーションは、大半の債券における主要なリスクです。デュレーションが長いほど、利回りの変化に伴う債券価格の変動は大きくなります。そのため、金利が急変動する局面では、ボラティリティはイールドカーブの長期ゾーンに集中する傾向にあります。

短期債は単純に、デュレーション・リスクが抑えられています。利回りが上昇すれば、価格はやはり下落しますが、通常、その下落は長期債に比べてはるかに小幅にとどまります。実務上、インフレ主導の相場下落局面では、これがドローダウン(資産価値の下落)に大きな違いをもたらし得ます。

同様に重要なのは、リターンの源泉として現在、インカムがより大きな役割を果たしているという点です。

利回りが高くなると、トータル・リターンにおいて、価格上昇による値上がり益よりも、契約に基づく収益であるインカム(いわゆるキャリー)の方が大きな割合を占めるようになります。短期債の場合、このインカムがより早期に得られ、利回りの不利な変動に対する緩衝材となります(図表2)。

図表2:リターンがゼロになるために必要な利回りの上昇幅

イールドカーブが順イールド(右上がり)となっている現在、こうした構造は特に魅力的になっています。短期債戦略は現在、長期債と同水準の金利リスクを負うことなく、現金に匹敵する、あるいは場合によってはそれを上回るリターンを創出することが可能です。

インカム対デュレーション:投資家が実際に保有しているものは何か?

投資家は自らが「債券を保有している」と考えがちですが、実際には、2つのエクスポージャーの組み合わせを選択しています。一つは、定められた期間の契約上のキャッシュフローから得られる「インカム」、もう一つは、利回りが低下する(あるいは少なくとも上昇しない)、さらにはタームプレミアムが安定して推移することに賭ける「デュレーション」です。

安定的な市場では、これら2つのエクスポージャーは足並みを揃えて機能します。しかし、インフレ・ショック時には、両者は急速に乖離する可能性があります。

3月の動向は、原油価格主導のインフレ懸念が金利見通しとタームプレミアムを同時に押し上げた場合に、デュレーション・エクスポージャーを持つことがいかに厳しい結果を招くかを示しました。

対照的に、短期債戦略は、有利なマクロ環境の実現に依存するのではなく、収益を得ながら待つというアプローチを明確に優先しています。

ポートフォリオの耐性を高める債券の役割

短期債ポートフォリオは無リスクではなく、ボラティリティと無縁でもありません。信用リスクや流動性状況、予想外の金利変動はやはり重要です。

しかし、中央銀行の対応を上回る速さでインフレ・ショックが波及する環境では、短期債のリスク特性は、ますます重要な意味を持つようになっていると思われます。

短期債に投資する理由は、もはやリターンの最大化ではありません。重要なのは投資成果を管理すること、すなわち、ドローダウンの抑制、予測可能性の向上、ポートフォリオの耐性を再構築することにあります。

債券が本来の役割を果たさなくなったとき、投資家は満期構成やキャッシュフロー構造がいかに重要であるかを改めて実感します。目下の環境で、短期債はリターンの安定を支える存在としての地位を改めて確立しつつあるでしょう。

本内容は、原則として機関投資家のお客様への情報提供を目的として作成・公開しています。

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