米国政治の不確実性の高まり、米国市場集中、米国のハイテク銘柄への過剰エクスポージャーに対処するには分散投資が不可欠でしょう。

ドナルド・トランプ米大統領は「解放の日」と名付けた4月2日に一連の相互関税措置を発表しました。それを受けて、4月3日のニューヨーク株式市場の株価指数はコロナ禍の初期以来の下げ幅となりました。

2025年の年明け時点では、米国株式市場は、2024年11月のトランプ氏の大統領当選以来、上昇を記録した世界でも少ない市場の1つでした。

その背景には、貿易関税、移民制度改革などトランプ氏が掲げる政策の多くが市場に有利な規制緩和や減税により重点を置くものになるという期待がありました。それに加えて、人工知能(AI)革命における米国のハイテク大手の独占が揺るぎないと見られていました。

しかし、そうした前提は「解放の日」を待たずに崩れ始めました。トランプ政権が関税を優先したために、同盟関係や移民政策を揺るがし、米国内外に大きな不確実性を生み出しています。他方、中国の新興ハイテク企業ディープシークは米国のハイテク主導権に関する前提に疑問を投げかけました。

「フリーランチ」

米国の経済学者で、ノーベル賞を受賞したハリー・マーコウィッツ氏はかつて「(金融市場における)唯一のフリーランチ(うまい話)が分散投資である」と述べています。

マーコウィッツ氏が構築した「現代ポートフォリオ理論」は、リスク軽減と収益向上のためにポートフォリオを多様化することの重要性を強調しています。

過去10年、米国市場への集中は高まる一方でした(図表1)が、私たちは今こそさらなる分散投資を進める時だと考えています。

図表1:グローバル指数に占める米国株式比率の推移  2020~2025年(%)

ポートフォリオの多様化は以下3つの方法があります。

地域分散投資

2024年のディリスキング(de-risking)で新興国市場への資産配分が減少に転じ、その比率は2017年の7.9%(平均値)から2025年当初には4.8%に減少しました[1]。現在の不透明な世界では、アジアが投資先として魅力を増しています。

  • インド :インド株式市場は2024年9月に始まった待望の下方調整局面が続く中で2025年を迎えました。その結果、インド株の相対的バリュエーションはより妥当な水準まで下がってきています。収益の伸びは鈍化傾向にありますが、私たちはインド市場は今後も引き続き無理なく2桁の収益の伸びを生み出すと予想しています。

     

    テクニカルな観点から見ると、国内投資家による買い越しは続いているものの、外国人投資家は6カ月連続の売り越しとなり、現在はベンチマークに対してアンダーウェイトとなっています。

     

    さらに、インドの長期的な構造的成長ストーリーは健在であり、消費拡大、国内経済の回復、政府による観光支援策の恩恵を受ける企業には引き続き成長の余地があると考えています。

  • 中国:投資家は中国投資を再開すべき時が来たのかどうか迷っているかもしれません。ここ数年、政府による国内不動産市場への規制強化と中国のハイテク大手に対する外国政府による制裁を受けて、国内の投資家と消費者の信頼感指数は低下しました。

    それにもかかわらず、中国からはディープシークによる生成AI、天神之眼(God‘s Eye)の自動運転システム、電気自動車(EV)大手の5分間で充電が可能なEVシステムの開発など、投資家の注目を引くイノベーションに関するニュースが相次いで伝わってきています。しかも、これらはすべて、米国の制裁やその他の対中規制にもかかわらず達成されたものです。 

    2025年に入ってから株価上昇があったものの、バリュエーションは引き続き魅力的な水準にあります。様子見を決め込んできた投資家には、新たな投資機会を探る好機かもしれません。中国に的を絞った投資か、あるいはより広範な国・地域を対象とする投資が考えられます。 
  • 東南アジア:10カ国からなる東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要国の一部は、コスト、効率、そして安全保障上の理由に基づくニアショアリング(生産拠点を最終消費地に近いところに移転させること) の恩恵を最も受けてきました。

     

    そうしたASEAN諸国への海外直接投資(FDI)は増加を続けており、対中投資の減少を相殺する格好となっています(図表2)。

     

    なお、米国が「解放の日」に発表した相互関税率が最も高い国には東南アジア諸国の一部が含まれていたことから、投資家の間ではそれらの国への海外資金の流れに変化が起きるのではないかという懸念が高まっていることも事実です。

     

    しかし、そうした歓迎しがたい驚きにもかかわらず、ニアショアリングの恩恵を受けている国々は、一般的に好ましい人口動向と中流階級の拡大の恩恵にもあずかっています。それに加えて、ベトナムやタイなどは国内資本市場の改革やコーポレートガバナンスの改善のために新たな政策を進めています。  

     

図表2:ASEAN及び中国向け海外直接投資(FDI)2000~2025年 (対GDP比%)

規模による分散投資

先進国市場では少数の大企業がいかに利益を上げてきたかはよく知られています。実際、2024年にはわずか8銘柄が世界の「大型株」によるリターンの50%を占めました。

一方、中小企業の数と多様性を考えると、どれほど業績が良くても、一握りの銘柄が時価総額の小さな企業(「小型株」)で構成される指数全体を牽引するのは不可能です(図表3)。

図表3:大型株、小型株別パフォーマンス(%)上位100銘柄

こうした多様性により、アクティブ・シェア(ポートフォリオの保有銘柄がベンチマーク指数とどの程度異なるかを示す指標)が高く、大型株との相関性が低い戦略を探している人にとって、小型株は理想的な投資対象となっています。

ポートフォリオに中小企業を加えることは、通常、リスクの拡大と見なされます。しかし、私たちは、現在の市場環境の中で投資家が分散投資の機会を確実に活用するためには、相関関係の低い銘柄を追加する必要があると考えています。

テーマ別分散投資

AI及びハイテクがしばらくの間、市場心理を支配してきました。ある時点では、世界の株価指数の中では「マグニフィセント・セブン(M7)」と呼ばれる7つの米国の大型テクノロジー銘柄のウェイトが7カ国を代表する銘柄の合計ウェイトを上回っていました(図表4)。

図表4: MSCIオール・カントリー・ワールド指数に占めるマグニフィセント・セブン銘柄のウェイト(%)

以上のような背景から、投資家は積極的に様々なテーマへの分散投資を図るべきだという見方が強まっています。

たとえば、「フューチャー・ミネラル」というテーマが考えられます。このテーマは、投資家が現代社会に不可欠な基礎素材へのエクスポージャーを得ることを可能にします。基礎素材の抽出、加工、リサイクルに関わる企業に投資することで、以下の例を含むいくつかの長期的な構造的傾向を捉えることができます。

  • グローバル電化
  • 米国の再工業化
  • 新興国開発

過去3カ月間、重要鉱物資源の戦略的重要性が高まってきたことは確かです。トランプ政権がウクライナ和平仲介の主要な条件としてリチウム、グラファイト、レアアース、マンガン、チタン、ウランといった同国の鉱物資源へのアクセスをあげています。

また、トランプ氏がグリーンランドを米国の支配下に置こうとするのは、鉱床の支配権、あるいは少なくとも鉱物へのアクセスを確保するのが狙いのように思われます。こうした地政学的な動きは極端に見えますが、それこそがこれらの資源の重要性を物語っています。

  1. ERFP、JPMorgan Consensus Asset Allocation、2025年3月

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