関税の引き上げが成長を阻害したり、インフレを助長したりする恐れがあり、米国政府の借入計画に関して投資家が懸念を抱いている足元の複雑な投資環境において、多くの情報に基づいた意思決定は一段と重要になっています。確信を持って投資するには、明確性が不可欠です。
本稿では、6月初めに「Aberdeen Gather – Global Investment Forum 2025」に参加したお客様向けに発表した最新のハウスビューから、主な知見をいくつかご紹介します。
債券、企業リスク、米ドル、プライベート・マーケットという4つの分野に焦点を当て分析し、今後1年~1年半の見通しを示しています。
債券が復活(ただし若干の注意が必要)
何年も人気を失っていた債券が再び投資家の注目を集めています。景気減速に陥る可能性がある中、魅力的な利回りと分散効果を理由に、私たちは国債と社債についてややポジティブな見方をしています。
中央銀行は緩和姿勢を維持しており、米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BoE)は金利をさらに引き下げる見通しです。そうなれば、金利が低下すると債券価格は上昇することから、債券価格は下支えされるでしょう。
ただし、債券のタームプレミアム(短期債ではなく長期債を保有することに対して投資家が要求する追加的な利回り)は引き続き上昇する可能性があります。その要因は、地政学的リスク、インフレの不確実性、政府の財政赤字の拡大です。
だからこそ、投資家は選別を強める必要があります。私たちが選好するのは、質の高い社債、イールドカーブの短期ゾーン、英国債のように中央銀行が大幅な利下げを実施するとみられる国のソブリン債です。
企業リスク:米国以外に目を向ける
世界の経済成長は鈍化する見通しですが、完全に失速することはないでしょう。例えば、私たちは主に貿易関税の影響を考慮し、今年の米国の成長率予測を昨年の2.8%から約1.8%に下方修正しました。
とはいえ、欧州と中国では政策による追い風が強まり、投資機会が生まれています。米国以外の先進国市場や新興国市場の株式の方が魅力的に見え始めているため、私たちは米国市場から徐々に軸足を移しつつあります。
例えば、欧州の財政政策はより景気支援的になっており、安全保障についての考え方の変化を反映し、欧州連合(EU)の防衛費は8,000億ユーロ(域内GDPの約5%)増額される予定です。
一方、4月と5月に市場が大幅に反発した後でも米国株式のバリュエーションは高く、欧州株式や中国株式の方がバリュエーションの妙味が大きいでしょう。
米ドルを巡る議論と「例外主義」の後退
世界の準備通貨としての輝きが失われつつある中、米ドルが話題となっています。私たちは短期的には米ドルに中立ですが、米ドルは今後数年で下落する可能性があると考えています。
米国例外主義(米国は独自の構造的優位性を持つため、一貫して他国よりも魅力的な投資先になっているという考え方)は後退しつつあります。
例えば、他の先進国市場は米国がここ数年実現してきた卓越した成長に挑んでくるでしょう。米国の巨大テクノロジー企業数社が享受してきた業界リーダーとしての地位も揺らいできているように見えます。米ドルは依然として潤沢な流動性と機関投資家の支持を享受しているかもしれませんが、長期的な見通しは明るくありません。
実際、グローバル投資家が「米国は投資先としての魅力が薄れている」という結論に達したため、米ドルはここ数ヵ月、持続的な圧力にさらされています。
プライベート・マーケット:構造的な投資機会
金利が低下し、経済成長が減速してはいるもののマイナスにはなっておらず、不動産、インフラ、プライベート・クレジットといった分野における優良資産の供給不足が続いている状況で、プライベート・マーケットはスイートスポットに入っています。
例えば、不動産の賃貸市場と融資市場が改善している一方、供給は抑制されていることから、世界の直接不動産投資は魅力的と考えます。
予測不可能な世界では、ポートフォリオの分散化が重要です。株式と債券が正の相関を示すことが増えている(両者が上下に連動して動くようになっている)ため、債券と株式で構成される標準的なポートフォリオでは十分な分散効果が得られなくなっています。
流動性の低さを許容できる投資家にとっては、プライベート資産が分散効果をもたらすと同時に、魅力的なリターンも提供してくれるかもしれません。ただし、バリュエーションの信頼性が低く、リスクが過小評価されている可能性があるため、デューデリジェンスが重要です。
下の表は、主要な資産クラスに関する私たちの見解をより詳細に示したものです。
図表1:アバディーンのハウスビュー
出所:アバディーン、2025年5月。記載されている見解は、ポートフォリオの構築方法や、特定の投資を購入・保持・売却するかどうかに関する助言や投資推奨として解釈されるべきではありません。
おわりに
明確性が重要です。私たちは、これから何が起こるかを正確に知っているふりをするつもりはありませんが、シナリオを構築し、様々な結果に備えています。
関税、選挙、地政学的情勢はすべて不確定要素であり、こうした状況においては、経済的な知見を投資の柔軟性や慎重な選別と組み合わせることで、先手を打つことができると考えます。
プロ投資家の方は、上記で取り上げたテーマの一部について、さらに深く掘り下げた経済分析をこちらでご覧いただけます。